結論から言うと、2026年10月1日に「106万円の壁」のもとになっていた月額8万8,000円以上という賃金要件は撤廃されました。ただし、パート・アルバイトが全員すぐ厚生年金と健康保険に入るわけではありません。2027年9月までは、原則として「週の所定労働時間が20時間以上」「2か月を超えて働く見込み」「学生ではない」「厚生年金の被保険者数が51人以上の企業で働く」といった条件が残ります。
つまり、「年収が106万円を超えたら加入」という見方から、まず週20時間以上かどうかを確認する制度へ変わった、と捉えるのが正確です。一方で、健康保険の扶養に関わる「130万円の壁」はなくなっていません。税金や会社独自の家族手当も別制度です。
この記事では、2026年10月4日時点の日本年金機構・厚生労働省の公表資料を基に、誰が対象になるのか、手取りはどの程度変わり得るのか、勤務時間を増やす前に何を確認すべきかを順番に整理します。制度上の一般的な目安を示すもので、個別の加入判定や給与計算は勤務先、年金事務所、加入する健康保険へ確認してください。
2026年10月の変更点を1分で確認
今回なくなったのは、短時間労働者の社会保険加入条件の一つだった「所定内賃金が月額8万8,000円以上」という条件です。年額に換算すると約106万円になるため、一般に「106万円の壁」と呼ばれてきました。日本年金機構は、2026年10月1日からこの賃金要件を撤廃したと案内しています。
| 確認項目 | 2026年9月まで | 2026年10月から |
|---|---|---|
| 所定内賃金 | 原則、月額8万8,000円以上 | 要件を撤廃 |
| 週の所定労働時間 | 20時間以上 | 20時間以上のまま |
| 雇用期間 | 2か月を超えて使用される見込み | 同じ |
| 企業規模 | 厚生年金の被保険者が51人以上 | 2027年9月まで原則同じ |
| 学生 | 原則として対象外 | 原則として対象外 |
一次資料は、日本年金機構の「短時間労働者にかかる賃金要件が撤廃されました」と、厚生労働省の社会保険加入の要件です。報道の見出しだけでなく、この二つを合わせて読むと「何がなくなり、何が残ったか」が分かります。
「106万円未満なら社会保険に入らない」は通用しない
これまでは、週20時間以上働いていても、所定内賃金が月額8万8,000円未満なら、短時間労働者向けの加入要件から外れるケースがありました。2026年10月以降は、その金額だけを理由に加入対象外とはいえません。該当する企業で週20時間以上働き、ほかの条件も満たせば、月収が8万8,000円未満でも加入対象になり得ます。
もっとも、一般的な最低賃金以上で週20時間働けば、月の賃金は通常8万8,000円を上回ります。厚生労働省は、全国の地域別最低賃金が時給1,016円以上となったことを踏まえて撤廃したと説明しています。そのため、多くの人にとっては突然対象が大きく広がるというより、実態に合わなくなった金額要件を制度から外し、判断軸を分かりやすくする変更です。
年収ではなく「契約上の週20時間」を先に見る
加入判定で中心になるのは、年間の給与を後から合計した数字ではなく、雇用契約書や就業規則などで定めた週の所定労働時間です。たとえば「1日5時間、週4日」なら20時間、「1日6時間、週3日」なら18時間です。時給が高く年収106万円を超えていても、週18時間でほかの加入ルートに該当しなければ、短時間労働者の週20時間要件は満たしません。
反対に、月収や年収が旧基準を下回っても、週20時間以上で残る条件を満たせば対象です。「106万円」という数字だけでシフトを調整するのではなく、契約時間と企業規模を確認する必要があります。
まず確認したい社会保険の加入ルート
パートやアルバイトの加入を考えるとき、短時間労働者向けの要件だけを見ると誤解が生じます。正社員の所定労働時間・日数の4分の3以上働く人には、企業規模にかかわらず、従来から別の加入基準があります。先に「4分の3基準」に当てはまるかを確認し、当てはまらない場合に週20時間などの短時間労働者向け要件を見ます。
ルート1:正社員の4分の3以上働く
同じ事業所の通常の労働者と比べ、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数がともに4分の3以上なら、原則として厚生年金・健康保険の加入対象です。この場合、「会社が51人以上か」「学生か」といった短時間労働者向け要件だけで除外されるわけではありません。
たとえば正社員が週40時間、月20日勤務の職場で、週30時間かつ月15日働く契約なら、4分の3基準を満たす可能性があります。企業の人数が少ないから自分は関係ない、と決めつけず、勤務先に基準を確認することが大切です。
ルート2:4分の3未満でも短時間労働者の要件を満たす
4分の3基準に届かない人でも、2027年9月までは原則として次の四つをすべて満たすと加入対象になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2か月を超えて使用される見込みがある
- 学生ではない
- 厚生年金の被保険者数が51人以上の企業等で働いている
2026年9月まで入っていた「所定内賃金が月額8万8,000円以上」は、ここから外れました。なお、51人未満でも労使の合意に基づいて任意で適用を広げている事業所や、国・地方公共団体の事業所など、加入対象となる場合があります。迷うときは給与担当者に「短時間労働者として社会保険の対象事業所か」を尋ねるのが早道です。
残る四つの条件を具体例で読み解く
条件1:週20時間は残業込みではなく「所定」が基本
所定労働時間は、契約上、通常の週に働くことになっている時間です。一時的な残業や繁忙期の応援を毎回足して判定するわけではありません。雇用契約書に週19時間と記載され、ある週だけ残業で22時間になったから直ちに加入、とは通常なりません。
ただし、契約は週20時間未満でも、実際の労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、その状態が続くと見込まれる場合は、3か月目から加入対象になると厚生労働省の適用拡大Q&Aで案内されています。慢性的に契約を超えて働いているなら、単月の例外と考えず、契約変更や加入時期を勤務先と確認しましょう。
条件2:「2か月を超えて働く見込み」は契約期間で判断
契約期間が2か月以内でも、更新されることが明示されている、過去に同じ契約が更新されてきたなど、2か月を超える見込みがあれば対象になり得ます。単に初回契約書の終了日だけを見るのではなく、更新条項や実際の雇用見込みを合わせて判断します。
短期イベントの1か月契約と、2か月ごとの更新を前提に長く続ける仕事では扱いが異なります。採用時に「更新の可能性あり」と言われた場合は、雇用契約書の記載と社会保険の資格取得予定日を確認しておくと、後から給与明細を見て戸惑いにくくなります。
条件3:学生は原則除外だが例外がある
短時間労働者向けの適用では、学生は原則として対象外です。しかし、「学生なら絶対に入らない」という意味ではありません。休学中、定時制・通信制の課程、一部の教育施設の在学者、卒業後も同じ事業所で働く予定の人などは、学生でも対象になる場合があります。また、正社員の4分の3以上働く場合は、短時間労働者向けの学生除外だけでは判断できません。
昼間学生が週20時間以上働くケースでは、学生証の有無だけでなく、学校の課程と働き方を勤務先へ伝えましょう。卒業直前に勤務時間を増やすと、卒業日や契約変更日を境に扱いが変わる可能性もあります。
条件4:「51人以上」は店舗ではなく法人全体で数えることがある
企業規模の人数は、店頭で見かける従業員の総数や、一つの店舗のアルバイト人数ではありません。法人の場合は同じ法人番号の事業所を合計し、現在の厚生年金の被保険者数、具体的にはフルタイムの従業員と正社員の4分の3以上働く従業員を基に数えます。
近所の店舗には10人しかいなくても、全国展開する企業全体で51人以上なら対象になり得ます。一方、フランチャイズ店では運営法人が別の場合があります。ブランド名や店舗数だけで推測せず、雇用契約書に記載された会社名と、勤務先の社会保険担当者への確認が必要です。
対象になるかをケース別に判定
次の表は、2026年10月以降、正社員の4分の3未満で働く人を想定した一般的な整理です。実際には任意適用事業所や学生の例外などがあるため、最終判定ではありません。
| 働き方の例 | 一般的な見方 | 追加で確認すること |
|---|---|---|
| 51人以上の企業、週22時間、長期契約、学生ではない | 加入対象になりやすい | 資格取得日と給与控除開始月 |
| 51人以上の企業、週20時間、月収8万円、学生ではない | 賃金が8万8,000円未満でも対象になり得る | 最低賃金の減額特例の有無 |
| 51人以上の企業、週18時間、年収120万円 | 短時間労働者の20時間要件は満たさない | 4分の3基準、実労働が継続して20時間以上か |
| 30人の企業、週24時間、長期契約 | 2026年10月時点の企業規模要件では通常対象外 | 任意適用の有無、2029年10月からの拡大 |
| 45人の企業、週22時間、長期契約 | 2026年10月時点では通常対象外 | 2027年10月から対象範囲に入る予定 |
| 51人以上の企業、週25時間、昼間学生 | 短時間労働者の要件では原則対象外 | 学生の例外、4分の3基準 |
| 週19時間契約だが実働22時間が3か月続く | 3か月目から対象となる可能性 | 今後も20時間以上が続く見込み |
| 小規模企業で正社員の4分の3以上働く | 企業規模にかかわらず対象になり得る | 正社員の所定時間・日数との比較 |
迷ったらこの順番で確認する
- 正社員の週所定労働時間・月所定労働日数の4分の3以上か
- 4分の3未満なら、自分の週所定労働時間が20時間以上か
- 2か月を超えて働く見込みがあるか
- 学生除外に当たるか、例外に当たるか
- 勤務先法人の厚生年金被保険者数が51人以上か、任意適用か
この順序なら、「年収がいくらか」だけに引っ張られにくくなります。給与担当者へ質問するときも、「私は週21時間契約で長期雇用、昼間学生ではありません。会社は短時間労働者の適用対象ですか」と条件を分けて伝えると、確認が進みやすくなります。
106万円の壁と130万円の壁は別物
最も多い誤解は、「106万円の壁が撤廃されたので、扶養の年収上限もなくなった」というものです。106万円と130万円では、判定の目的も条件も異なります。
| 呼び方 | 何の基準か | 2026年10月時点 |
|---|---|---|
| 106万円の壁 | 短時間労働者が勤務先の厚生年金・健康保険に入るための旧賃金要件 | 月額8万8,000円要件を撤廃。週20時間などで判定 |
| 130万円の壁 | 主に配偶者などの健康保険の被扶養者、国民年金第3号被保険者でいられるかの収入基準 | 撤廃されていない |
| 税の基準 | 本人の所得税や配偶者控除・配偶者特別控除など | 社会保険とは別に判定 |
| 会社の家族手当 | 配偶者の勤務先が独自に支給する手当 | 会社ごとの就業規則で判定 |
勤務先の社会保険に入る人は130万円より先に判定される
51人以上の企業で週20時間以上働き、ほかの条件も満たす人は、年収130万円に届く前でも自分の勤務先の社会保険に加入します。この場合、配偶者の健康保険の扶養に残るかを130万円だけで選ぶことはできません。
一方、企業規模や週20時間の条件を満たさず、自分の勤務先の社会保険に入らない人は、引き続き130万円の基準が重要です。収入が基準を超えて被扶養者でなくなれば、国民健康保険・国民年金へ自分で加入するなどの対応が必要になる場合があります。
一時的な収入増には事業主証明の仕組みがある
繁忙期の残業などで一時的に収入が増え、130万円を超える見込みとなった場合、事業主が一時的な増収であることを証明し、保険者が認めれば、被扶養者認定を続けられる仕組みがあります。厚生労働省は、原則として連続2回までの利用を案内しています。
ただし、基本給の引き上げや恒常的な勤務時間増加など、今後も収入増が続く場合の救済ではありません。最終的な認定は加入する健康保険が行います。詳しくは厚生労働省の年収の壁・支援強化パッケージと、配偶者側の健康保険の案内を確認してください。
19歳以上23歳未満の被扶養者には150万円の基準も
配偶者を除く19歳以上23歳未満の被扶養者については、2025年10月以降、年間収入の要件が150万円未満へ引き上げられています。大学生年代の子どもがアルバイトをする家庭では、「学生だから106万円だけ見ればよい」「全員130万円」と一律に考えず、年齢、続柄、勤務先での加入条件を分けて確認しましょう。
社会保険に入ると手取りはいくら変わる?
加入直後は給与から健康保険料と厚生年金保険料が引かれるため、配偶者の扶養に入っていて保険料を自分で負担していなかった人は、同じ給与額なら手取りが減ります。ただし、国民健康保険と国民年金を自分で払っていた人は、勤務先が保険料の一部を負担するため、手取りが増えるケースもあります。
厚生労働省の月収9万8,000円の例
厚生労働省の手取りかんたんシミュレーターには、月額9万8,000円の例が掲載されています。2026年4月時点の料率などを使い、住民税を含めない前提で、概算手取りは次のように示されています。
| 加入前の状態/加入後 | 月額9万8,000円の概算手取り | 見方 |
|---|---|---|
| 配偶者などの扶養に入っている | 約9万7,500円 | 自分の健康保険料・年金保険料負担がない前提 |
| 国民健康保険・国民年金を自分で負担 | 約7万6,300円 | 国民年金月額1万7,920円などを反映した例 |
| 勤務先の厚生年金・健康保険に加入 | 約8万3,500円 | 勤務先と保険料を分け合う |
同じ「加入で保険料が発生する」という変化でも、扶養から移る人は約1万4,000円の手取り減、国民年金・国民健康保険から移る人は約7,200円の手取り増という方向になります。この比較から分かるのは、加入後の数字だけで損得を決めず、加入前に誰がどの保険料を負担していたかを見る必要があることです。
月収別の簡易試算
次の表は、厚生労働省の2026年4月時点のシミュレーターにある全国平均の健康保険料率9.9%、子ども・子育て支援金率0.23%、厚生年金の本人負担相当9.15%、雇用保険の労働者負担0.5%を参考に、本人負担を給与の約14.715%として単純計算したものです。健康保険・厚生年金は標準報酬月額の等級で計算され、健康保険料率は都道府県や健康保険組合で異なります。所得税、住民税、介護保険料、賞与、端数処理も反映していないため、給与明細の予測ではなく規模感を見る目安です。
| 月の給与 | 社会保険・雇用保険の本人負担の単純目安 | 税引前の残額目安 |
|---|---|---|
| 8万8,000円 | 約1万2,950円 | 約7万5,050円 |
| 9万8,000円 | 約1万4,420円 ※公式例は等級・端数を反映して約1万4,500円 |
約8万3,580円 ※公式例は約8万3,500円 |
| 11万円 | 約1万6,190円 | 約9万3,810円 |
| 12万6,000円 | 約1万8,540円 | 約10万7,460円 |
| 15万円 | 約2万2,070円 | 約12万7,930円 |
40歳以上65歳未満の加入者には原則として介護保険料も加わるため、表より本人負担が増えます。また、社会保険料が増えると所得控除も増えるため、所得税・住民税への影響は単純に給与差だけでは決まりません。正確な金額は、加入する健康保険、標準報酬月額、年齢、居住地、扶養状況を勤務先の給与担当者へ確認してください。
勤務時間を増やすなら「保険料を超える増収」も見る
扶養から外れる直後は手取りが下がるため、加入を避けようと週20時間未満に抑えたくなる人もいます。しかし、時給や勤務可能時間が許すなら、保険料の発生額だけでなく、勤務時間を増やした後の総収入で比較することが重要です。
たとえば月収9万8,000円で扶養から移る公式例では、加入後の手取りは約8万3,500円です。ここだけ切り取ると減少に見えますが、勤務を増やして月収12万6,000円になれば、単純試算の税引前残額は約10万7,460円です。税金などを無視した概算ではあるものの、「壁を少しだけ越える」場合と「希望する時間までしっかり働く」場合を分けて考える材料になります。
同時に、配偶者の会社の家族手当が停止することがあります。自分の給与明細だけでなく、世帯全体の手取りで、①自分の社会保険料、②本人・配偶者の税、③配偶者側の家族手当、④通勤や保育など追加費用を並べて比較しましょう。
手取りだけでは見えない加入の保障
厚生年金・健康保険への加入は、保険料という支出だけでなく、将来と休業時の保障を増やす仕組みです。短期の手取り差だけで「損」と結論づけると、受けられる給付を見落とします。
将来の年金が基礎年金に上乗せされる
国民年金の基礎年金に加えて、加入期間と報酬に応じた厚生年金が上乗せされます。加入期間が長く、報酬が高いほど上乗せ額は増えるのが基本です。加えて、障害の状態になったときの障害厚生年金や、亡くなった場合の遺族厚生年金が対象になる可能性があります。
受給額は将来の制度、加入月数、標準報酬、賞与、過去の加入記録で変わります。毎年届く「ねんきん定期便」や、ねんきんネットの試算を使えば、自分の記録を反映した確認ができます。「月の手取りがいくら減るか」と「保障がどれだけ増えるか」は時間軸が違うため、別々に見るのが適切です。
病気やけがで休んだときの傷病手当金
勤務先の健康保険の被保険者が、業務外の病気やけがで働けず、連続する3日間を含み4日以上休み、給与を受けられないなどの条件を満たすと、傷病手当金の対象になります。厚生労働省の案内では、おおむね給与の3分の2相当が、支給開始日から通算1年6か月まで支給されます。
扶養家族として健康保険証を使うだけでは、本人の休業による収入減を補う傷病手当金は通常受けられません。持病の有無にかかわらず、長期療養時の生活費リスクを考えると、現金給付の差は重要です。
出産で休んだときの出産手当金
出産のため仕事を休み、給与の支払いを受けないなどの条件を満たす被保険者には、出産予定日前42日から出産後56日までを基本に、給与の3分の2相当の出産手当金があります。出産育児一時金とは別の、休業中の所得を補う給付です。
妊娠・出産を予定している人は、加入・退職の時期によって条件が変わるため、自己判断で契約時間を減らしたり退職したりする前に、勤務先と健康保険へ確認すると安心です。制度の概要は厚生労働省の社会保険加入のメリットで確認できます。
新しい「保険料調整制度」は全員の負担軽減ではない
2026年10月からは、一定の事業所が低賃金の短時間労働者を新たに社会保険へ加入させる際、厚生年金保険料の本人負担を最大3年間軽くし、その分を事業主が多く負担できる「保険料調整制度」も始まりました。ここで注意したいのは、加入した全員に自動適用される制度ではないことです。
対象となり得る事業所と従業員
日本年金機構の案内では、主な対象は2026年10月以降に新たに任意特定適用事業所となる事業所と、2027年10月以降の企業規模要件の拡大で新たに適用対象となる事業所です。対象従業員は、短時間労働者として新たに被保険者となり、標準報酬月額が12万6,000円以下であるなどの条件を満たす人です。
すでに51人以上の企業で働き、今回の賃金要件撤廃だけで加入するすべての人へ一律に適用されるわけではありません。事業主の申し出や届け出も必要です。「3年間は保険料が必ず安い」と期待せず、自分の勤務先が制度を使う事業所か確認しましょう。
本人と会社の厚生年金保険料の分担
通常、厚生年金保険料は労使折半です。調整制度を使う場合は、低い標準報酬ほど最初の2年間の本人負担を軽くし、会社側が多く負担します。3年目は通常の折半へ段階的に近づけ、4年目から通常負担に戻ります。
| 標準報酬月額 | 1・2年目 本人:事業主 | 3年目 本人:事業主 |
|---|---|---|
| 8万8,000円以下 | 25:75 | 37.5:62.5 |
| 9万8,000円 | 30:70 | 40:60 |
| 10万4,000円 | 36:64 | 43:57 |
| 11万円 | 41:59 | 45.5:54.5 |
| 11万8,000円 | 45:55 | 47.5:52.5 |
| 12万6,000円 | 48:52 | 49:51 |
この比率は厚生年金保険料の負担配分であり、健康保険料などまで同じ割合になるという意味ではありません。日本年金機構は、制度によって本人負担を軽くしても将来の年金給付は減額されないと説明しています。対象、手続き、計算方法は保険料調整制度の概要で確認できます。
企業規模要件は2027年から段階的に縮小
2026年10月に撤廃されたのは賃金要件です。企業規模要件は同時になくなるのではなく、2027年から2035年まで段階的に広がります。
| 時期 | 短時間労働者の対象となる企業規模 |
|---|---|
| 2026年10月~2027年9月 | 厚生年金の被保険者が51人以上 |
| 2027年10月~ | 36人以上 |
| 2029年10月~ | 21人以上 |
| 2032年10月~ | 11人以上 |
| 2035年10月~ | 企業規模要件を撤廃し、10人以下にも拡大 |
たとえば厚生年金の被保険者が45人の企業なら、2026年10月に賃金要件がなくなっても、企業規模要件だけを見れば直ちに強制適用の範囲へ入るわけではありません。しかし、2027年10月には36人以上へ広がる予定です。30人の企業は2029年10月、15人の企業は2032年10月に範囲へ入る計画です。
「今年は対象外だったから今後も同じ」とは限りません。勤務先の規模が境界付近にある人は、制度開始の半年ほど前から会社の説明、契約時間、世帯の保険を確認しておくと、急な手取り変化に備えられます。企業規模の段階的な拡大は厚生労働省の社会保険の加入対象の拡大についてで示されています。
対象者別:働き方を決めるときの考え方
制度の条件が同じでも、現在の保険と家計の状況によって、確認すべきポイントは変わります。ここでは「加入を避けるべき」「必ず時間を増やすべき」と一律に決めず、比較の順序を対象者別に示します。
配偶者の扶養内で働いている人
まず、自分の勤務先で社会保険に入る条件を満たすかを確認します。満たす場合は、年収を130万円未満にしても、自分の勤務先の健康保険・厚生年金へ加入するのが原則です。加入前後を比べる際は、自分の給与から引かれる保険料だけでなく、配偶者の会社から出ている家族手当が停止しないかを必ず確認してください。
次に、週20時間未満へ抑えた場合と、時間を増やして収入を伸ばした場合の年間手取りを比較します。加入直後の小さな増収では、保険料負担によって手取りが一時的に減ることがあります。しかし勤務時間を増やせるなら、一定以上の収入で差を取り戻せる場合があります。傷病手当金や厚生年金の上乗せを含め、少なくとも1年単位で考えるのが現実的です。
国民健康保険・国民年金を自分で払っている人
フリーター、一人暮らし、配偶者の扶養に入っていない人など、すでに国民健康保険料と国民年金保険料を自分で負担している場合、勤務先の社会保険への移行は「新たに保険料が発生する」だけではありません。厚生労働省の月収9万8,000円の例では、国民健康保険・国民年金を負担する状態より、勤務先の社会保険に入った方が概算手取りは高くなっています。
理由は、厚生年金と健康保険の保険料を勤務先が負担するからです。国民健康保険料は自治体や前年所得で大きく変わるため、前年の納付通知書と、会社から示された加入後の概算保険料を並べて比べましょう。国民健康保険を脱退する手続きは自動で完了しない自治体もあるため、資格確認書類やマイナポータルの情報だけで済ませず、市区町村の案内も確認します。
学生アルバイトとその家族
昼間学生は短時間労働者向けの要件では原則除外されますが、休学、定時制、通信制、卒業後の継続雇用など例外があります。さらに、正社員の4分の3以上働く場合は別ルートで対象になり得ます。週20時間という数字だけを見て、学生は全員安全とも、全員加入とも判断できません。
家族の健康保険の被扶養者としての収入基準も、配偶者と大学生年代の子では同じとは限りません。19歳以上23歳未満の被扶養者については150万円未満の収入要件が設けられていますが、勤務先で自ら社会保険へ加入する場合の判定とは別です。奨学金、学費減免、親の税控除への影響も別制度なので、それぞれの窓口へ分けて確認します。
複数の勤務先で働く人
A社で週12時間、B社で週10時間働くから合計22時間、という理由だけで、どちらか一方の会社で直ちに短時間労働者の加入要件を満たすわけではありません。原則として週20時間などの要件は勤務先ごとに判定します。
一方、複数の勤務先でそれぞれ加入条件を満たした場合は、「二以上事業所勤務」の手続きが必要になり、報酬を合算して標準報酬月額を決めたうえで、各社の報酬に応じて保険料を分けます。副業を始めるときは、勤務先に他社就労を伝えるだけでなく、両方で加入条件を満たす可能性があるかを年金事務所へ相談すると確実です。
50人前後の企業で働く人
2026年10月時点で対象外でも、企業規模要件は翌年以降に変わります。厚生年金の被保険者が36~50人の企業は2027年10月、21~35人は2029年10月に対象範囲へ入る予定です。会社が成長して被保険者数が増えれば、予定時期より前に51人以上の基準へ達することもあります。
勤務時間を長期的に設計するなら、今年の判定だけでなく2~3年先も見ておきます。社会保険加入を前提に勤務時間を増やせるのか、保険料発生後の賃金改定や手当があるのか、会社の説明会はいつかを確認してください。会社側も、制度直前に突然伝えるのではなく、対象候補者へ早めに概算手取りと手続きを示すことが望まれます。
加入前後の手続きは何を、いつする?
社会保険の資格取得手続き自体は勤務先が日本年金機構へ行いますが、本人にも確認・連絡が必要な場面があります。特に扶養から移る人は、勤務先側の加入と配偶者側の扶養削除を別々に進めるため、日付の食い違いに注意します。
加入が決まる前
- 雇用契約書、労働条件通知書、直近の給与明細を用意する
- 週所定労働時間、契約更新、学生区分を勤務先と確認する
- 加入予定日と最初の保険料控除月の説明を受ける
- 配偶者の会社へ、扶養削除に必要な書類と提出期限を聞く
- 家族手当、保育料、奨学金など別制度への影響を確認する
資格取得日を迎えた後
勤務先から資格情報のお知らせなどを受け取り、マイナポータルや資格確認書類で加入状況を確認します。配偶者の扶養に入っていた場合は、配偶者の勤務先へ扶養削除の書類を提出します。国民健康保険に加入していた場合は、市区町村で脱退手続きが必要か確認し、保険料を二重に納め続けないようにします。
最初の給与明細では、健康保険、厚生年金、雇用保険の各控除額と対象月を確認します。事前に聞いた概算と大きく違う場合は、標準報酬月額、40歳以上の介護保険料、前月分との合算控除などを給与担当者へ尋ねます。社会保険料控除による所得税の変化もあるため、総控除額だけで誤りと決めつけないことが大切です。
退職や契約時間変更のとき
退職すれば勤務先の資格を失いますが、次の会社へすぐ移るのか、配偶者の扶養に戻るのか、国民健康保険・国民年金へ移るのかで手続きが変わります。契約を週20時間未満へ変更しても、実際の勤務が20時間以上で続けば資格が継続する可能性があります。変更日だけでなく今後の勤務見込みを会社と共有してください。
資格取得・喪失の空白や重複は、医療機関の窓口負担や後日の保険料精算につながります。「会社が全部してくれる」と任せきりにせず、自分の加入先と資格日を記録しておくと安全です。
働く人が今すぐ確認する7項目
1. 雇用契約書の週所定労働時間
直近の実働時間ではなく、契約上の時間を確認します。「月80時間」「シフトによる」とだけ書かれている場合は、週所定労働時間を会社がどう定めているか尋ねましょう。複数パターンのシフトがある人は、周期全体の平均で判断する場合があります。
2. 契約期間と更新見込み
2か月を超えて働く見込みがあるかを確認します。更新の有無、更新判断の基準、過去の更新実績が手掛かりです。採用担当の口頭説明だけでなく、雇用契約書や労働条件通知書も保存しておきます。
3. 勤務先の対象人数
店舗の人数ではなく、法人全体の厚生年金被保険者数で確認します。給与担当者には「従業員総数は何人ですか」より、「短時間労働者の社会保険適用で51人以上に該当しますか」と聞く方が正確です。
4. 学生区分と例外
昼間学生、休学、通信制、定時制、卒業後の継続雇用など、自分の状況を具体的に伝えます。学校の名称だけでは判断できない場合があるため、課程や在学状況が分かる書類を準備します。
5. 配偶者側の健康保険と家族手当
自分が勤務先の健康保険に入る日が決まったら、配偶者側で扶養削除の手続きが必要です。家族手当・配偶者手当は健康保険とは別のため、配偶者の就業規則も確認します。二重加入や手当の返還を防ぐため、双方の会社へ同じ時期に連絡しましょう。
6. 最初に控除される給与月
資格取得日と、給与から保険料を控除するタイミングは同じ表示月とは限りません。締日・支払日や会社の控除方法で見え方が変わります。「10月分の保険料が何月支給の給与から引かれるか」を給与担当者に確認し、初月だけ手取りが大きく違うように見える事態を避けます。
7. 保険料調整制度を勤務先が使うか
標準報酬月額が12万6,000円以下でも、自動的に本人負担が軽くなるわけではありません。勤務先が対象事業所で、制度を申し出る予定があるか、何年間どの割合が適用されるかを書面で確認します。
会社側が準備したいポイント
事業主は、月額8万8,000円未満という条件だけで対象者を除外していた抽出ルールを見直す必要があります。2026年10月以降は、週所定労働時間、雇用見込み、学生区分、企業規模を基に候補者を洗い出します。
- 給与・勤怠システムの加入判定条件から月額8万8,000円要件を外す
- 契約上20時間未満でも実働20時間以上が続く従業員を確認する
- 学生区分と例外を採用時・在学状況変更時に確認する
- 資格取得日、給与控除月、扶養削除手続きを本人へ説明する
- 2027年以降の企業規模拡大を見越して対象人数を定期確認する
- 保険料調整制度の対象可否と、利用する場合の届け出を確認する
説明では「106万円の壁がなくなったので加入です」だけで済ませず、「週20時間以上」「2か月超の雇用見込み」「学生ではない」「対象事業所」という根拠を本人ごとに示すと、誤解を減らせます。手取りが下がる人には、保険料だけでなく傷病手当金、出産手当金、厚生年金の上乗せも合わせて説明することが重要です。
よくある誤解を整理
週20時間を1分でも超えた週があれば加入?
一度だけの実働超過で直ちに加入するわけではありません。基本は契約上の所定労働時間です。ただし、実働が2か月連続で週20時間以上となり、今後も続く見込みなら、3か月目から対象になる場合があります。
年収106万円未満に抑えれば扶養のまま?
一概にはいえません。勤務先の社会保険加入条件を満たせば、年収106万円未満でも自分の勤務先の社会保険に加入します。条件を満たさない場合でも、健康保険の被扶養者認定では130万円など別の基準があります。
51人未満の会社なら絶対に対象外?
絶対ではありません。正社員の4分の3以上働く人は別基準で対象になり得ます。また、会社が労使合意で任意に適用を広げている場合もあります。さらに企業規模要件は2027年以降、段階的に縮小します。
副業先の労働時間を全部合計して20時間を見る?
原則として加入要件は事業所ごとに判定します。各勤務先で要件を満たして複数の適用事業所に使用される場合には、二以上事業所勤務の手続きが必要になることがあります。副業を含む個別判断は、各勤務先と年金事務所へ確認してください。
本人が希望しなければ加入を断れる?
法律上の加入条件を満たす場合、原則として本人の希望だけで加入しない選択はできません。手取りを維持したいから資格取得を断るのではなく、契約時間をどうするか、働く時間を増やして総収入を上げるかを会社と相談します。
8万8,000円未満なら例外なく加入?
最低賃金法の減額特例許可を受け、週20時間以上でも所定内賃金が月額8万8,000円未満となる短時間労働者は、原則として被用者保険の対象外とする特例があります。ただし本人が希望すれば任意加入でき、事業主の同意は不要とされています。一般の最低賃金で働く人と同じ扱いだと決めつけず、該当者は年金事務所へ確認してください。
まとめ:金額の壁から時間と働き方の判定へ
2026年10月1日に撤廃されたのは、短時間労働者の社会保険加入に使われていた月額8万8,000円以上、年額換算で約106万円という賃金要件です。今後は年収額だけでなく、週の所定労働時間が20時間以上かどうかを中心に、雇用見込み、学生区分、企業規模を確認します。
一方、2027年9月までは原則51人以上という企業規模要件が残り、130万円の扶養基準、税、会社独自の家族手当も別に存在します。「106万円の壁がすべてなくなった」「週20時間なら全員加入」という説明はいずれも不十分です。
まず雇用契約書で週所定労働時間と更新見込みを確認し、勤務先へ対象事業所かを尋ねてください。加入が決まったら、給与控除月、配偶者側の扶養削除、家族手当、保険料調整制度の有無を確認します。手取りの減少だけでなく、厚生年金の上乗せ、傷病手当金、出産手当金まで含め、世帯全体と中長期の保障で判断することが、制度変更を働き方に生かすポイントです。


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